毎度いきなりご無礼をば伊賀崎に御座います。伊賀崎、保長殿に惚れ申す。
毎度いきなりご無礼をば伊賀崎に御座います。
先達ての七月三日に名古屋城にて忍務を行って参りましたが、この日はかなり暑く、早くも猛暑の兆しを感じさせる1日で御座いました。
そんな炎天下の中、我々の演武に足を止め、ご声援下さった皆々様には深く御礼申し上げるとともに、酷暑の際は、こまめな水分補給をして頂く事、切に願い奉ります。
私伊賀崎も美濃焼の一品が御座いまして、こちらに気付け薬など忍び込ませておきますれば、如何な暑さと言えど乗り越えてみせましょう。
さて美濃焼と言えば武将に古田織部様と言う方がいらっしゃいまして、当時、かなり希有な感性をお持ちでいらっしゃいました。
かの方の感性に、美しさとは、端正で瀟洒な物だけに非ず、歪で豪胆な物の中にも宿ると言う個の味わいを大切にしていらっしゃいます。
私なんかは、残念ながら斯様に品を嗜む感性は御座いません。
禄も品より扶持の方が大切ですから、ついつい食い気に走ってしまいがちですし、道具なんてのは、どんな物でも使い込んでいく内に愛着も湧けば、味わいってのが出てくる物です。
まあ、かの御仁に言わせれば、そう言った品や生き方こそ、飾らない機能美って言われてしまいそうですが…
感性の違う方から見れば、人の生き様も美術品も色々な見方が出来てしまうものなんですね。
話が大分逸れてしまい退屈させてしまいましたが、この日三日は久々に保長様と演武をご一緒させて頂きました。
やはり保長様は凄いの一言に御座います。
何がって申しますれば、やはりその生き様と申しましょうか…
我々が行っている体術演武で正重が後方胴回し蹴りをご披露させて頂いた際、目標の風船を掲げる為、私の人馬をひょいと軽々と上られました。
正重の技は、勿論凄い物ですが、実はその陰では保長様の技が光っております。
と言いますのも、この人馬、かなり不安定かつ危険な物で御座います。
試しに縄ばしごに手を使わずに登る、耐えるって事を想像して頂ければ解りやすいと思います。
ましてやその不安定な状況で正重がしくじれば一番の怪我人は保長様となります。
それを表に出さず、孫の為に桧舞台を作り上げるなんて凄いじゃありませんか。
心なしか、正成殿のお顔も、父と子を見守る険しい表情にも見えてきます。
またそれだけではなく、保長様の体躯。
ご見識のあるお客様からのお声もありましたが、正に鍛え込まれたお体。
太く大きな筋肉と言うのは、多少鍛錬を積めば直ぐに作れますが、細く引き締まった筋肉と言うのは、長い年月、ただひたすら同じ動きを反復練習していかねば、なかなか作れません。
そのお体が正に今までの生き様を表してるみたいでは御座いませんか。これを惚れずして何に惚れましょうや。
その生き様、在り方が保長様を形作ってる様に見えてきますれば、朴念仁な私でも、なる程、織部様の仰る事が少しは理解出来るように思えます。
私の美濃焼も五年十年を経て味わい深き一品になるよう大切にしていきたい物です。
今後も乙なる物を目指す隠密隊をどうぞご贔屓に。
伊賀崎道順